マツダ株式会社

マツダ株式会社

日本を代表する自動車メーカーであるマツダ株式会社では、先進的なIT技術を利用した開発に取り組むため、稼働中システムのメンテナンスや維持について開発手法を見直し、大幅な開発生産性の向上を実現した。また、長年の課題『脱Excel』を実現するツールとしてSpreadJSを導入した。これらの取り組みについて、同社のIT部門に所属する粟根芳樹氏、喜多村泰寛氏、山田順子氏にお話を伺った。

導入した製品

  • SpreadJS

導入前の状況

  1. コネクテッドビークルの開発や、サプライチェーン、設計・開発、カスタマーエクスペリエンス領域のDX化といった“攻めのIT”を行うにあたり、稼働中システムの維持・メンテナンス(セキュリティやサーバーのサポート切れ対応など)といった“守りのIT”が課題となっていた
  2. 老朽化資産の中でも、“何でもExcelにしてしまう文化”により、Excelを利用したシステムが大量にあり、『脱Excel』化が重要なテーマであった
  3. システムの刷新にあたって、単なる技術の置き換えではなく、従来の開発手法を全面的に見直し、すべてのシステムについて標準化、共通化を推進する方針になった

導入の決め手

  1. これまでExcelで実現していた複雑な業務要件を満たすことができ、『脱Excel』を実現できるツールであった
  2. Webシステムに組み込めるためユーザーの環境に依存せず、OSのバージョンアップ対応といったメンテナンスコストがかからないことがポイントだった

導入による効果

  1. ブラウザ上でExcelと遜色ない表現、操作ができ、全社的な『脱Excel』に踏み出すことができた
  2. 『脱Excel』を含む、すべてのシステム化に向けた共通基盤を作り、これを活用しながらシンプルな構造にしていくことで、簡単なシステムの場合は従来の開発に比べて生産性を3~5倍まで上げることができた
  3. “守りのIT”の工数を削減していくことで、空いたリソースを“攻めのIT”に投資でき、新しいビジネスに貢献できるようになった

マツダのITの取り組み~“攻めのIT”と“守りのIT”~

マツダ株式会社は、創立100年を迎えた日本を代表する自動車メーカーである。2000年代にスタートした同社の“モノ造り革新”という言葉を聞いたことがある人は多いだろう。この取り組みは『一括企画』、『コモンアーキテクチャー』、『フレキシブル生産』を中核に多品種少量生産を実現し、自動車業界に大きな影響を与えている。
この活動を下支えする同社IT部門では、AIやモバイル技術など最先端のIT技術を活用し、コネクテッドビークルの開発や、サプライチェーン、設計・開発、カスタマーエクスペリエンスといった各領域のDX化の取組みを進めており、これを“攻めのIT”と呼んでいる。一方、社内で稼働中のシステムの維持、メンテナンスについては“守りのIT”と呼び、この2軸を柱として活動を推進している。
DXについては経済産業省が“2025年の崖”として警鐘を鳴らしているが、同社も例外ではなかった。稼働中の大量のシステムについて、老朽化が浮き彫りとなったのは2014年頃の話だ。

「2020年までに、メインフレーム、サーバー、OSなどのサポート切れについて対応する必要がありました。膨大な量のシステムの刷新ということになります。マツダには“2025年の崖”の前に、“2020年の壁”があったのです。」(粟根芳樹氏:MDI & IT本部 サプライチェーンシステム部)

従来の開発・メンテナンス手法ではコストがかかりすぎてしまうため、このままだと“攻めのIT”にまでリソースを割くことができない。また、基幹システムの老朽化は現行ビジネスを継続できないリスクも浮上する。そのため、この“守りのIT”における開発プロセスを抜本的に見直す必要があった。同社のIT部門では、これらを解決するための施策を “ITモノ造り革新”と題し、生産性を飛躍的に向上させる取り組みとしてスタートすることにした。

“ITモノ造り革新”と“何でもExcelにしてしまう文化”の課題

“ITモノ造り革新”は、冒頭で紹介した“モノ造り革新”のIT版である。同社の得意とする『コモンアーキテクチャー』、『フレキシブル生産』といった手法をITの領域まで踏み込む形だ。具体的には、以下のような方針である。

  • システムについて、共通性がある部分と個別対応が必要になる部分を切り分ける
  • 共通性がある部分についてはしっかりと共通基盤を作る
  • 個別対応が必要なアプリケーションについては、共通基盤を活用しながらできるだけシンプルに作り込む

「従来までの開発手法は、業務の課題が出てくるたびに個別開発で対応するものでした。いわゆるスクラッチの『オーダーメイド開発』で、案件ごとに技術選定からスタートしていました。この手法を取りやめ、すべてのアプリの共通化について全社的に取り組むことになりました。」(喜多村泰寛氏:MDI & IT本部 インフラシステム部)

システムの業務要件を整理整頓し、これまで完全オーダーメイドで開発していたアプリケーションについて共通化の範囲を広げ、部品化する。その部品を、画面部品やロジック部品としてカタログ化する。そしてそのカタログから必要な部品を選択し、開発するスタイルだ。この手法であれば工数削減が期待でき、誰が開発しても同じ品質を保つことができる。
しかし、この施策に取り組むにあたり、大きな課題があった。

「マツダには“何でもExcelにしてしまう文化”がありました。稼働中の多くのアプリケーションでExcelが利用されており、そのほとんどが複雑な計算式やマクロが組み込まれたものです。」(山田順子氏:MDI & IT本部 サプライチェーンシステム部)

Excelは多機能であるがゆえに何でも出来てしまい、ユーザーも操作に慣れているため安易に導入してしまうが、システムとして運用していくには課題が多い。特に、PCの入れ替えやOSバージョンアップ時のトラブルが頻発しており、Excelの動作検証およびバージョンアップに対する作業工数は多大なものだった。このことから、“ITモノ造り革新”ではシステムの『脱Excel』を目標の1つに掲げ、推進していくこととなった。

『脱Excel』を叶える共通部品としてSpreadJSを採用

『脱Excel』を目標に掲げたものの、ユーザーが求める機能として“Excelライクであること”は欠かせない。Excelを使わずともこれまで利用していたExcelベースの複雑なアプリケーションを再現でき、共通部品として利用できるツールを探していた。以下はExcel連携、SpreadJS、他社グリッド製品との比較表である。

どのツールにもそれぞれメリット/デメリットがあることが分かる。グレープシティのSpreadJSは、開発生産性の部分で他のツールに比べると評価は低かったが、稼働中システムの高度な業務要件に応えられる唯一のツールであったという。

「ユーザーに要求されるExcelの操作性や機能を再現できるのはSpreadJSだけでした。きちんとブラウザで動くので、クライアント側のバージョンアップなどの依存がありません。開発生産性についてハードルが高いことを理解したうえで、マツダの高度な情報アプリをWebで実現するためにはSpreadJSが一番良いだろうと総合的に判断し、採用することになりました。」(山田氏)

改修が必要な数あるシステムの中で、特に画面の設計が複雑なアプリケーションについて、SpreadJSを利用した開発を進めることになった。

SpreadJSの導入

ここでは、SpreadJSを導入したシステムについて具体的に紹介したい。

船積計画管理システム(通称G-ODDS)

  • 世界各国に輸出される完成車について、車種等で一括管理するのではなく、車1台毎に出荷の計画を立てており、世界各国の工場から、いつ車が出荷され、いつお客様のもとに届けられるのかという情報を一元管理する
  • 縦の行に船の情報、横の列に日付(30日、60日など)が並ぶ
  • それぞれの日に、何台出荷が可能で、どの車をどの船に乗せるかという情報を、画面上でシミュレーションし、様々な軸で結果を検証する

従来の船積計画管理システムは、日本工場ではクライアントサーバーシステム、海外工場ではExcelで運用されており、日本と海外どちらの要件も満たした上でグローバルシステムとして構築した。今回の再構築では、ローコード開発ツールOutSystemsとSpreadJSを組み合わせて開発されている。

以下の画像は、マツダ社に提供いただいたG-ODDSの画面である。各所にSpreadJSの機能が使われている。

SpreadJSで実現した機能

  1. グループ化
    常時確認する情報と、必要なときにだけ確認する情報の『表示/非表示』の制御
  2. フィルタ、ソート
    情報量が多いため、データの絞り込み選択や、ソート順変更
  3. スクロール位置の固定
    縦軸の船便数も多く、また横軸も30日、60日分の列を1画面で表示することは難しいため、項目を固定した縦横スクロールの実現
  4. セルマージ
    情報の関連性を表現するために3行分を1行にマージ
  5. 数式埋め込み
    船に何台の車が乗っているのか、未出荷予定になっているものが何台あるのか、などのシミュレーションを画面上で瞬時に行うため、数式計算をクライアント側で実施
  6. Excelダウンロード
    他部門への展開や情報の再利用のため、Excelエクスポート機能を実装し、そのままの見た目でダウンロードを実現
  7. 値のコピー&ペースト
    入力項目が非常に多いため、コピー&ペーストでの入力を可能とし、業務効率化を実現

「G-ODDSでは、1回の画面操作で扱うデータ量が1万件以上かつ、1レコードあたりの情報量は50項目以上と膨大な量となることが日常的です。それをブラウザで表示しようとするとメモリ不足からクライアントPCの動作が非常に重くなるという問題もありますが、SpreadJSの場合はこういった課題をクリアしやすかったです。」(山田氏)

このほか、同社ではSpreadJSを利用し『BOM管理システム』の開発も行った。BOM(Bill of Materials)とは製造業で用いられる部品表のことで、主に商品企画やマーケティング部門で利用する。商品(車)の仕様について、装備・スペックという何百行もの情報をリスト化し、クロス集計して1つ1つ比較を行えるシステムだ。これまでは完全にExcelで業務を行っていた部分であり、『脱Excel』を実現できた事例である。

SpreadJSに対する評価と“ITモノ造り革新”の成果

SpreadJSを利用した2種類のアプリケーションの開発に携わった山田氏は、SpreadJSについて次のように評価する。

「この2つのアプリケーションは、大量の表形式データを扱うことが共通した特徴であり、ブラウザ上でここまでスムーズに動かせるのはSpreadJSでないと実現できなかったと思います。また、OSやブラウザのバージョンアップ対応といったメンテナンスコストがかからないことは大きなメリットであると言えます。描画や入力値の取得など、特にパフォーマンス面では苦労し、グレープシティのサポートを利用することもありましたが、出来上がったシステムについてユーザーからの反応は好評でした。」(山田氏)

このように、SpreadJSは同社の『脱Excel』に向け一翼を担うことができた。
さらに、喜多村氏はSpreadJSに対する所感について次のように話す。

「高度なシステムを作り上げるためには、自分たちだけで解決することは難しいと感じています。グレープシティには引き続きパフォーマンス面での改善をお願いしたいですが、SpreadJSをより良い製品にしてもらうためには、我々もSpreadJSのユーザーとして、サポートの利用を通して情報を共有していくことが重要だと思っています。」(喜多村氏)

また、“ITモノ造り革新”の全体的な成果について伺った。

「2015年からこの取り組みをスタートし、当初の目標は開発生産性を飛躍的に上げることでした。2021年時点では、カタログ選択型開発やOutSystemsやSpreadJSといった新技術を活用することで2~5倍まで上げることができており、簡単なアプリケーションであれば従来の開発工数の1/5程度で実現することができています。“守りのIT”の領域に対し、計画的に老朽化対応をしていくと同時に、“ITモノ造り革新”によって整備した技術を利用したコンパクトなアプリ開発により、新しいIT技術を活用したビジネス“攻めのIT”に貢献できるようになりました。」(粟根氏)

今後の取り組み~“カタログ選択型開発とは?”~

全社的にシステムを共通化するという“ITモノ造り革新”によって開発生産性を大幅に向上させ、SpreadJSを共通部品として利用することにより『脱Excel』を実現したマツダ社。今後も開発生産性の継続的な向上を目指し、引き続き施策に取り組んでいくと言うが、どのような展望があるのだろうか。

「従来の開発手法である完全オーダーメイドの個別開発から、“カタログ選択型開発”へ移行することで1から業務要件を定義しシステムを設計するのではなく、機能やユースケースなどを組み合わせたシンプルな業務アプリケーション開発を推進しています。この活動の中にSpreadJSも共通部品の1つとして組み込んでいきたいと考えています。」(喜多村氏)

「現状、SpreadJSは部品として利用していますが、似通ったパターンの画面・機能をテンプレート化して、標準ツールとして整備していきたいと考えています。値と項目をテンプレート化されたSpreadJSに与えたら簡単にアプリが出来上がる、というのが理想です。このような仕組みができれば属人化を回避でき、誰が開発しても同じ品質のシステムが出来上がります。」(山田氏)

“新しい技術に取り組むために古い技術が足かせとなってしまっていた”、“何でもExcelにしてしまう文化から脱したかった”という同社が抱えていた課題は、多くの日本企業が抱えている課題と同じであると言える。迫りくる“2025年の崖”を乗り越えるにあたり、マツダ社の“ITモノ造り革新”という大きな取り組みを参考にしてもらいたい。グレープシティでは、同社が目指す“カタログ選択型開発”を実現できるよう、E-mailサポートなどを通して支援していく。

※ 本記事でご紹介した開発案件は、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社が技術支援しています。
※ 本記事内に掲載している画像はマツダ株式会社より提供されたもので、著作権はマツダ株式会社に帰属します。

(取材協力:2021年3月)

マツダ株式会社
マツダ株式会社
所在地〒730-8670
広島県安芸郡府中町新地3番1号
設立1920年1月30日
事業内容乗用車・トラックの製造、販売など
URLhttps://www.mazda.com/ja/

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